公民館のようなミニシアター「Stranger(ストレンジャー)」で特別な映画体験を(月刊ステテコ12月号)

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@Ryu Itadani
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今月の絵『デジタルシネマプロジェクター』 by Ryu Itadani

公民館のようなミニシアター「Stranger(ストレンジャー)」で特別な映画体験を(月刊ステテコ12月号)

 12月になりました。今年は「身近なしあわせ」を探して方々へ取材をさせていただき、学び甲斐のあるお話をたくさん聞くことができました。そんな2025年を締めくくるテーマは「映画」です。今回は東京・墨田区菊川にあるミニシアター「Stranger(ストレンジャー)」取締役社長の更谷伽奈子さんを訪ね、映画館にまつわるあれこれを聞いてきました。

 

Strangerの更谷伽奈子さん

 「Stranger」はカフェを併設したミニシアターとして2022年にオープン。小規模ながらも鋭い審美眼と工夫を凝らした独自の運営スタイルで、地元住民や全国の映画ファンから高い支持を集めている劇場です。更谷さんは2024年から同館の社長を務めていらっしゃいます。

映画館は特別な場所

――更谷さんはどうして映画業界に?

更谷さん 単純に学生の頃から映画が好きだったので、卒業後も映画の仕事ができたらいいなと思っていて。でも関わり方がいっぱいある中で、自分は何ができるんだろうなと考えて、制作会社のインターンシップや、映画配給会社でアルバイトをしてみたり、野外上映のお手伝いをしてみたり、いろいろ動いていくうちに、映画を作るより、より多くの方に届ける方の仕事に興味を持ったんです。ひとつの作品に対して、出口をたくさん作る仕事がしたいなと。

――出口という意味では、放送や配信というのもありますよね。

更谷さん 映画館に観に行くという行為を含めて映画が好きだったんです。決まった時間に来て、知らない人たちと約2時間、スマホも触らずスクリーンに集中して作品を観るという行為に魅力を感じていました。そういう制限を課してまで観るものって、やっぱり感じ方とか作品が持つメッセージの入り方とかがぜんぜん違うと思うんです。

――映画館は特別な場所だったと。

更谷さん 「年に何百本も観ています」というほどではありませんが、それでも映画館には定期的にずっと通っていました。ある意味、逃げ場というか、ここの中にさえ入ってしまえば、現実で自分が生きてる世界と一旦、遮断できる。作品に向き合う2時間を持つことの大事さは、昔から感じていたんです。

映画館の社長さんのお仕事

――更谷さんのお仕事をひとつ、教えてください。

更谷さん 仕事はたくさんあるのですが、ひとつお話しするとしたら「上映プログラムの編成」です。Strangerはスクリーンが1枚なので、基本的には1日6本の上映がベースです。だいたい金曜日から木曜日というのが1週間のサイクルになるんですけど、その1週間分の上映スケジュールの発表を月曜日の夜にしています。

――週が明けると上映スケジュールが更新されているということですね。

更谷さん 週末の動員数など状況を見て判断するので、満席が続く作品があれば延長したり、学生さんや20~30代のお客様が多いと感じたら、大学の授業終わり、お仕事終わりでも上映時間に間に合う時間にスケジュールをずらしたり。動向としてはチケットのデータからでも分かるのですが、実際に劇場でお客様とコミュニケーションを取るなどしながら判断するようにしています。この方法が正解かどうかはわからないのですが、少しでもお客様が今観たいと思う作品を上映したくて。

Strangerはこんなところ

居心地の良いアットホームなカフェスペース

――更谷さんが着任されてから、特に力を入れている点というのはありますか。

更谷さん まず何よりもStrangerの変わらない魅力として、菊川駅の目の前というアクセスの良さと、ナチュラルで気持ちいいカフェの空間というのがあって、私が力を入れている点としては、以前よりも上映本数を増やしたり、ジャンルの幅を広げたり、あとはカフェのメニューも増やしました。

――確かに美味しそうなメニューがたくさんあります。

更谷さん カフェだけご利用いただくお客様もいらっしゃるので、いつ来ても楽しんでいただけるように映画をイメージしたオリジナルメニューを考えたり、夜はバー的な雰囲気を出すためにお酒を出して照明を落としたり、それから物販にも力を入れていて、映画の関連グッズを作ったりポップアップを行ったり、いろいろやってますね。

――海外からのお客さんも?

更谷さん 多いですね。浅草とか下町を観光される旅行者の方だと、墨田区に滞在するのが便利なんだと思います。なので英語字幕付きで邦画作品を上映したり、ちょうど12月は「Materpiece OZU 2025」という小津安二郎監督の特集をするのですが、全部英語字幕付きで上映予定なんです。

Strangerは墨田の公民館

壁面には注目作品に関連した展示も

――墨田区や菊川周辺の印象としてはいかがですか?

更谷さん ここ2年くらいは地域の方とご一緒できる機会が多く、例えば映画『パーフェクトデイズ』をきっかけに、同じ墨田区にある銭湯の「電気湯」さんと交流したり、「すみだパークシネマフェスティバル」という野外フェスティバルの代表の方がStrangerの建物の2階で「ワークシネマパラダイス」というコワーキングスペース運営されていたり、墨田区はアートとかカルチャーにとても敏感で関心を持ってる方が多い印象があるので、映画館を受け入れてもらいやすいんじゃないかなと思ったりしています。

――やはり近所に映画館があるのは特別ですよね。1日に6作品も上映されていますし。

更谷さん 公民館のような感覚で地域の方に来ていただけるとすごくいいなと。ここに来れば何かと楽しめるなと思ってもらえる場所になりたいです。日常の中に溶け込むというか、地域密着型で文化を発信できるような劇場にしていきたい。

――公民館のような開放的なスタンスがStrangerらしさになっているのですね。

更谷さん そうですね。カフェスペースの壁に展示コーナーを作ったり、作品に出演している俳優さんの誕生日をお祝いする装飾をしたり、通常よりも大きい音量を設定して、まるでライブ会場にいるかのような上映会を開いてみたり、一つひとつの作品に対して「何かできないか?」と考えながら、なるべく作品と近い距離感でお客様に楽しんでいただける環境づくりを心がけています。

――「Strangerで観た」という体験がセットで思い出になりそうです。

更谷さん 本当にそう思っていただけたら嬉しいです。「この日にStrangerに観に行こう」って思ってもらえるように、スタッフみんなでStrangerに足を運ぶための理由になるフックをいっぱい作るようにしてます。

映画グッズもたくさんあります

――ところでステテコにはご興味ありますか?

更谷さん 私、これまであまり“ステテコ”というワードを口に出したことがなかったので、多分この取材のお話をいただいてからが、人生で1番“ステテコ”と発した期間だったかもしれないです(笑)。

――恐縮です(笑)。

更谷さん 正直あまり馴染みはなかったのですが、でも今回のことがあって、今、興味があるかないかで言うとすごく「あり」です。ウェブサイトを拝見するとすごい素敵でおしゃれですよね。なんか、その……失礼なんですけど、想像よりすごく、今っぽいというか……めちゃめちゃおしゃれです。

――ありがとうございます! もしもステテコが必要な上映やイベントがあったらいつでも呼んでください。

更谷さん ステテコポップアップとかやれたらおもしろいですね。そういう映画、何かないかな……。

――最後、何かお知らせなどあれば。

左:小津安二郎監督特集のインフォメーション / 右:『GET CRAZY』のチラシ

更谷さん 先ほどお話しした小津安二郎監督の特集があるのと、あとは毎年の大晦日に合わせて、もう4年連続で上映をしている『ゲット・クレイジー』という、かなりぶっ飛んでいる作品を上映します。本作にこだわって上映しているのはきっと(全国でも)Strangerだけだと思うのですが、年末と言ったら「Strangerで『ゲット・クレイジー』」というのが一部の映画ファンの中では定着してきているほどなんですよ。

――1982年の大晦日にライブをする話なんですね。なんだかおもしろそうです。

更谷さん 本編を観ると「なんだこれは!」って感じですけど(笑)、めちゃめちゃ楽しいんです。去年、私もお客様と一緒に12月31日の一番最後の回で観たのですが、満席でのあの熱気は本当にすごい。最高です。もうこれがないと年越せないぐらい。

――ぜひ観てみたいです。今日はありがとうございました!

更谷さん ありがとうございました。

Stranger(ストレンジャー)

東京都墨田区の菊川にあるカフェ併設型のミニシアター。都営新宿線の菊川駅から歩いて約1分という好アクセスと、アットホームな空間で繰り広げられる工夫を凝らした上映スタイルが人気。

Instagram : @stranger.tokyo

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