加瀬健太郎さん、広告を語る(月刊ステテコ 8月号 )

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©Ryu Itadani
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今月の絵 「TV」  by Ryu Itadani

加瀬健太郎さん、広告を語る

それから数日後のとても暑い日。僕は久々に加瀬さんとお会いした。

加瀬健太郎(かせ けんたろう) 写真家。1974年大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、イギリスに留学。London College of Communicationで学ぶ。

著書に『スンギ少年のダイエット日記』(リトルモア 2008)、『イギリス:元気にジャンプ!ブルーベル(世界のともだち)』(偕成社 2015)、『撮らなくてもよかったのに写真』(テルメブックス 2015)、『お父さん、だいじょうぶ? 日記』(リトルモア 2017)、『ぐうたらとけちとぷー』(絵本 絵・横山寛多/偕成社 2020)、『お父さん、まだだいじょうぶ? 日記』(リトルモア 2021)

 

以下 加瀬健太郎さん=加瀬   僕=ステテコ

加瀬
加瀬
今日はどういう話で?
先日テレビを観ていたら大きな会社がCMをバンバン流していて、うらやましいなぁと思いまして。
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
なるほど。それで僕に、というわけですか。
もちろん、テレビでCMを流す予算なんてないんですけどね。
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
わかりました。僕に任せてください。
ありがとうございます。心強いです。なんか、斬新な見たことのないようなCMができそうですね。
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
いや、別に僕は「誰も見たことのないもの」に価値を感じてませんから。よく桁外れのお金持ちの人が「宇宙行きたい」とか言うてるでしょ。あれ、多分お金を持ちすぎて、もう他にやることないんですよ。ある程度からお金って意味無いですから。
なるほど。ある一定以上になると。
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
はい。紙と一緒です。だからしょうがないから高級車買い漁ったり女優と付き合ったりした後、退屈やなぁ、次は何しよ。宇宙でも行こか、みたいな。
加瀬さんは退屈を紛らわすことはやりたくない、と。
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
いや、僕はシンプルにお金が無いですから。お金が無いので宇宙に行こうかな、なんて思わない。僕は駅前に行こうかな?とかのレベルです。う~ん、でも暑いしめんどくさいなぁって。
結局、駅前にも行かない。。
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
今の世の中のシステムがちょっとおかしいんじゃないですかね。今まではあんなことなかったんです。昔は自分の身体を動かした分だけの収入だったのに、今はとてつもないお金が集まってくるシステムをつくってもうた。
加瀬さんもそういうシステムを作ろうとかって思わないんですか?
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
作れたら作ってますよ。それができないので僕は毎月、カレンダーにその月の仕事の合計金額を書いているんです。はー今月は足らん、今月は足らんっていうところになんかその楽しみがあるんじゃないですか。これがここに今月30億って書いてたら、僕はポッカーンってなると思います。これが30万円とかやからちょっと足らんなーとか、おっしゃ今月はいけたーとかってなるでしょ。あれ、お金の話でしたっけ??
えっと、CMはいままでのと違う新しいものを目指すんですか?という話でした
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
そうそう。なんかいるんですよ。誰も撮ったことない写真を撮りたいって。どんなんやねん!そんなもん見たないわ!そんなん、月に家ぽつんと建ててるようなもんでしょ。そんな家、楽しいんかい!って。そんなんやったら出来てる街の中にこっそり住ましてもらいますぐらいの方が人の生活も見えるし楽しいでしょ。誰もいないところにぽつんと家を建てるとか、そんなんが好きな人も勿論いますけど、僕は興味ないんです。
加瀬さんは誰もやったことないことをやることに価値があるとは思わないと。
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
はい。そこを目指したくはない。自分が笑えたらいい。それが新しいとか、古いとか、有るやんとか、無いやんとかはあくまで結果的にの話であって、僕はどうでもいいんです。あ、こんなん撮ったらおもろいなって。考えたときに、スッて自分が笑えたら、(その作品は)いける。考えて、止まらんようになってきて自分が笑えたら、OKです。
逆に出来上がりがいまひとつなときは?
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
「こんなん作ったらクライアント喜ぶかな」とかって基準が自分じゃないときです。
ほぅほぅ。
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
広告界では、ほとんどの場合、みんなが記号として見れる写真を目指します。例えば、絵に描いたような幸せな家族の写真。見る人が安心するでしょ。でも、ひっかからないでしょ。見たようでスーと抜けていくでしょ。事故がないのが広告。メインの綺麗な女の人が鼻毛出てたら「え、誰も言わんかったんかな」ってひっかかるでしょ。そういう失敗がコショウみたいなスパイスなんじゃないかなと僕は思うんですけど、広告って全部正解なんです。全部失敗を排除していくでしょ。失敗を全部はずしていくんです。おかしいところを取っていったときに何も残っていない。みんなが勝手に思っている正しさみたいなところに従っていくんです。全部が正しい、ありもしない正解に近づけていこうとしていく。それをやっている自分に気付くと何かゾッとするんです。
そういうのが勿論、性に合っているカメラマンの方もいるんでしょうけどね
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
そうですね。まっ、僕にそんなに広告の仕事が来ないっていう話だけなんですけど。ガンガンお金くれるんやったら全然やりますけど。
やるんですか笑
ステテコ
ステテコ
加瀬
加瀬
でもそんな仕事はしっかりした感じの人がやってるんですよ。やっぱりね、最近思うのは、しっかりした感じの人じゃないと儲からない。そこが僕には向いてないんですよね。だから儲からないんです。(沈黙)あれ、お金の話でしたっけ??

 

加瀬さんが広告を語ると、何故か最終的にはお金の話になることが多かった。(つづく)

※このインタビューは加瀬さんが、おちょけ気味で受け答えされているものです

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