お風呂はあたたかい(月刊ステテコ2月号)

ryuitadani_41
@Ryu Itadani
@Ryu Itadani

今月の絵『お風呂』 by Ryu Itadani

お風呂はあたたかい(月刊ステテコ2月号)

 「寒さ極まる冬を快適に過ごしてほしい」という思いから生まれたラクダインナーが発売となり、その暖かさの虜になる令和のラクダ族がジワジワ増えている(かも知れない)中で迎えた2月。

 冬を過ごす誰もが抱く「あたたまりたい」という切実な気持ち。よく考えてみるとそれは生き物としての原初的な願いである一方で「あたたまるためにヒトができること」は実はほとんど変わっていないのではないか――ということに気がつきました。たとえばみなさんが「なんだかちょっと、あたたまりたいな」と思ったとき、どうしますか?

・体を動かす

・衣類を着る(ホッカイロ含)

・火(陽)にあたる

・暖房を入れる(強くする)

・あたたかい食事をとる(飲み物含)

・お風呂に入る

 どうでしょう? ほとんどの手段が大昔からずっと変わっていないのではないでしょうか。

 その中で今回着目したいのは「お風呂」です。長い人類史上でお風呂が全自動化したのはつい最近のこと。でもそもそも最初期に「お湯って気持ちいいな」と発見したヒトはどんな具合だったのでしょう。ちょっと想像してみることにしました。

 ――ある日、おばあさんがたまたまいつもと違う山の中を歩いていると、にわかに嗅いだことのない変な匂いがしてきました。何が起きているのか分からず怖くなり、しばらくその付近には近づかないようにします。徐々に同じような体験をするヒトが現れて「あの山には何か居るに違えねえべ」と村中が噂に包まれると、「よし、オラが見てきてやる」と怪力自慢の男が立ち上がります。

 男は教わった通りに山の奥へ奥へと進み、ついにその匂いが漂ってきました。はじめて嗅ぐ強烈な匂いに鼻が曲がりそうになりながらしばらく歩き回っていると、やがて川のほとりに靄がかかった不思議な水溜りを発見しました。「なんだぁ、これは……」と、恐る恐る手を入れてみます。いや、はじめは石を投げ入れたり、木の枝をチョンチョンと浸してみたりしたかもしれません。そうして少しずつ警戒心が剥がれていき「なんだが大丈夫そうだべ」と意を決し、指先から腕、つま先から脚を入れ、ついには体ごと肩まで浸してみました。

 「あぁあああああ……」なんと気持ちいいことでしょう。

 これはいいものを見つけた。とすっかりポカポカになって村へ戻るのですが、ちょっと待て。大勢が押し寄せて湯溜まりが涸れてしまっては困る。あれは自分だけの秘密にしておこうと思い、あえて残念そうに「なんも無がったべ」と報告します。

 しかし男はだんだん自慢したい気持ちを抑えきれず、つい親しい者に「絶対誰にも言うでねぇぞ」と話してしまいます。そこから一人増え、二人増えるのに大して時間はかかりませんでした。山奥の秘湯はあっという間に公衆浴場と化し、湯も涸れることなく、みんなで仲良く入ったかも知れず、もしかしたら利権争いにもなったかも知れません。

 実際にそのような発見秘話があったかどうかは分からないのですが、でも「お風呂はあたたかくて気持ちがいい」ということだけは確かです。もう少し寒さは続きますが「お風呂」の前後はぜひラクダインナーを着て暖かく過ごしてくださいね。

先頭に戻る