

今月の絵『ハリスホーク』 by Ryu Itadani
鷹匠の江頭千景さんに聞く、鷹とのパートナーシップの育て方(月刊ステテコ9月号)
9月になりました。秋の入り口は「風の季節」でもあります。風の旅人、風の噂、風の歌……風はさまざまな形で私たちに差出人不明の便りを届けてくれますが、古来、そんな「風」によって結ばれてきたパートナーシップもあります。鷹と人間です。そこで今回は株式会社グリーンフィールドに所属する鷹匠の江頭千景さんを訪ね、お話を聞いてみました。
グリーンフィールドは専門の訓練を受けた鷹を操る鷹匠集団として、日本古来の放鷹術を用いた「追い払い」による害鳥駆除などを行う総合コンサルタント会社。今回、お話を聞かせていただいた江頭さんはのその関東営業所エリアマネージャーを務める女流鷹匠として活躍されています。

お話を聞かせてくださった鷹匠の江頭千景さん
――最初に、なぜ江頭さんが鷹匠になろうと思ったのかをお聞かせください。
江頭さん 私は農業高校の畜産科の出身で、3年間、牛や豚とかニワトリの世話をしながら学んだのですが、3年生になる頃に学校で野生の猛禽類(もうきんるい=肉食性の鳥の総称)の保護施設を担えないかというプロジェクトが持ち上がったんです。
――高校に猛禽類の保護施設を?
江頭さん はい。当時は野生の猛禽類の保護施設があまりなかったようで。
――保護というのは、ケガをした鳥など……
江頭さん そうそう。そのためにはまず生徒が猛禽類の世話をできるようにならないとねと、訓練された鷹を学校が購入して、その世話係になったのが最初の出会いでした。お世話をしていくうちにもっと深く知りたいなと思うようになって、外部からコーチのような方が教えに来てくれてたので、「猛禽類を使ったお仕事ってあるんですか?」って聞いたら、動物園とか花鳥園のバードショーのお仕事のほかに、鷹を使ってカラスとかハトを追い払うお仕事があると知りました。
――追い払いの方に興味を持ったのですね。
江頭さん はい。バードショーは見たことがあったので、その追い払いをしてるという鷹匠の方にアポイントを取ってもらって、ちなみにその方がのちに師匠になる方なんですけど、実際の追い払いの現場を見学させてもらったときに、バードショーで飛んでいたハリスホークという種類と同じ鷹なのに、まったく飛び方が違うなって思ったんです。
――どう違ったんですか?
江頭さん ショーでは人と人がいて、その間を飛ぶ感じだったんですけど、師匠が飛ばしていた鷹は、もっと野生の飛びのような感じでした。建物とか木に向かって飛ばして、呼ばれたら戻ってくる鷹の飛びに衝撃を受けて、即、弟子入りしたいと(笑)。
――決断が早い。
江頭さん そうですね。実際に進路も決まってなかったのでよかったです(笑)。

パートナーのハリスホークの蓮ちゃん
鷹の訓練、匠の訓練
――お弟子さんとしての修行はどんな様子だったのでしょうか。
江頭さん 高校卒業してそのまま入ったので、1年半ぐらいは師匠に同行です。「鷹」とは、「鷹の扱い」とは、「仕事」とは、など社会人としてのあれこれですね。お客様への挨拶とか礼儀とか、そういったものも全部1年ぐらいで教えてもらって。
――鷹に接するようになるのは?
江頭さん しばらくは師匠や先輩の鷹で練習させてもらって、1年ぐらい経って自分の担当の鷹が決まると、猛禽類専門のブリーダーさんの元へ引き取りにいきます。そこから昼間は師匠と一緒に現場を回り、夜は担当の鷹の訓練をする感じですね。
――初めて担当する鷹は、すでに何か訓練を受けていたのですか?
江頭さん いえ、受けていません。真っさら。何も知らない子です。ブリーダーさんの元から連れて帰ってきて最初にやるのは、鷹の足に足革(あしかわ)という装飾と紐を付けて、止まり木にとめるところからです。
そうやって小屋の中に繋ぐと、鷹からすれば「足に何か付いてる」「知らない場所」「繋がれてる……」みたいな状態ですよね。まずはその状態に慣れさせます。鷹は最初に連れてくるときお腹がいっぱいの状態なんですが、一度ギリギリまでお腹を空かせて、エサをあげる。そのエサを食べてくれたら「この小屋の中は慣れた」という段階になるので、今度は人間に慣らしていきます。

蓮ちゃんを放つ江頭さん。この日は特別に許可をいただき、追い払いのお仕事の現場で取材しました
―― まだ人間に慣れていないところからなんですね。
江頭さん 厚い鹿革のグローブをつけてエサを口元へ持っていくんですけど、やはり最初は警戒されます。「なんだお前は」みたい感じで食べないんですけど、続けていくうちにだんだん慣れてきて、手からエサを食べだしたら大丈夫。
――少しずつ……
江頭さん はい。人間からエサを食べてくれるようになったら鷹自体を左手に乗せる。その状態でまた右手からエサを食べることを教えます。それが大丈夫になったら小屋の外というか、出入り口を開けて、外がクリアに見える状態にして慣らして、それが大丈夫だったら1歩出てみて、大丈夫だったら、また1歩出て……という感じで毎日、地道に教えていくのを約3か月続けます。
――訓練の時間帯に意味はあるんですか?
江頭さん 最初は夜からです。鷹は鳥目なので、はっきり見えない状態から始めて、もう手に乗っても大丈夫だなってなってきたら、屋外の走る車とか、街の音とかに慣らして、それに慣れたら部屋の中に入ってみて、暗い部屋の中でテレビをつけてみて、人の喋り声とか動きとかに慣らして、大丈夫だったら照明が点いた廊下に出てみて……という感じで慣らして、大丈夫だったら、今度はまったく同じことを夕方にしてみる。夕方でも大丈夫だったら、日中や朝に現場に連れていくと。

蓮ちゃんが飛び立つ角度とピッタリの美しいフォーム
――そんなに細かく……
江頭さん そうですね。今(インタビュー中)は車に積んだ移動用の箱に大人しく入ってますけど、箱もだんだん慣らしていかないといけなくて、最初はただ箱を置いて見せる。次にフタを開けたり閉じたりするのを見せて、フタを全部取って、鷹を手に乗せたまま、入れて、出して、入れて、出して、ちょっと長めに入れて、大丈夫だったら、フタを閉じてみて、開けて、閉じて、という感じで慣らしていきます。
――嫌がる場合もあるんですか?
江頭さん もちろん。鷹がちょっとでも嫌がったらもうそこでダメなので、もし嫌がったらひとつ手前の訓練に戻る、もしくは今日はそこでやめる。そうして鷹の慣れ、許容具合を見ながら、少しずつできることを増やしていく感じですね。
――鷹によって性格は違いますか?
江頭さん 違いますね。音も何も全然気にしない、テレビも平気、明るいところでも暗いところでも反応が変わらないって感じでタンタンタンって慣れが進む子もいれば、暗いとことは大丈夫だけど明るい室内に入った瞬間に嫌がる子もいたり。さっき飛ばした蓮ちゃんは11年一緒にやっているんですけど、かなりフレンドリーな性格です。

餌掛(エガケ)と餌合子(エゴウシ)
鷹匠の道具
――江頭さんが鷹匠として使っている道具を教えていただけますか。
江頭さん たとえば鷹を手にとまらせるためのグローブは海外製のもあるんですが、私たちはこの日本製の方を使っています。鷹の爪が引っかからないように縫い目が裏側にくるようになっています。
――あ、ほんとだ。ステッチが見えない。特別な名称はあるんですか?
江頭さん 「餌」に「掛」で「餌掛(エガケ)」って言います。手作りでとても丈夫です。
――鷹の爪はすごく鋭そうです。
江頭さん 手にとまることに慣れてるので普段は大丈夫なんですけど、何かでびっくりしたり、緊張したりとかするとグゥーって力が入ることもあるので、そういうときは餌掛を付けていてもやっぱり痛いですね。
――左手に付けるのには意味があるのですか。
江頭さん 私は師匠にならって諏訪流という流派で学んでいるのですが、昔からの伝統というか武士の時代からの名残りで右手で刀が抜けるようにです。諏訪流は左利きでも右利きでもみんな左手に鷹を据えるように習います。
――武士の文化に由来していたんですね。
江頭さん はい。他の流派とか、独自で築き上げた方だったり、海外だったら右手用のグローブもあったりするんですけど、諏訪流はそうですね。
――他にはどんな道具がありますか。
江頭さん エサを入れる漆塗りの餌箱も諏訪流の道具で、え・ご・う・し、餌合子(エゴウシ)と言います。
――先ほど飛ばしたときにフタと本体で鳴らしてましたけど、それが合図で戻ってくるんですか?
江頭さん そうです。初期の訓練から鷹を止まり木などにとまらせて、「ホッ」っていう掛け声と、この餌合子のカンカンで呼び戻す合図を教えます。

カンカンとホッが届かない場合はホイッスルを使うのだそう
風になる鷹
――江頭さんが鷹匠のお仕事を通じて「これは驚いた」というエピソードはありますか。
江頭さん やっぱり鷹は賢いということですかね。日々の現場で学ぶことがいろいろとあって、最初の1年とかはもうがむしゃらに飛んでる感じなんですけど、やっぱり年数を重ねるごとに経験が増してくるんです。
例えば、たまに獲物を追うことがあるんですけど、「あ!獲物がいる!行きたい!バーッ!」っていう感じではなくて、「あの距離は追いかけて獲れる距離なのかどうか」を判断していたり、今までだったら獲物に向かって一直線に行ってたのが、わざと違う方向に飛んで風を使って勢いつけてとか。彼女たちが経験から学んで賢くなっているの見ると、なんかすごいなーと思いますね。私が教えてるわけじゃないのに。

放鷹後にゴクゴク水を飲む蓮ちゃんと、霧吹きで水浴びをさせる江頭さん
――江頭さん自身は鷹匠になって何か変化はありましたか。
江頭さん なんだろうな……でも「肝が座ってる」じゃないですけど、昔からあったものが強化されてるところはあるかもしれないです(笑)。今は女性の鷹匠の後輩が3人いるんですけど、私が入社したとき周りはおじさんばっかりだったんですよ。そんなところに18歳の女の子が飛び込んでいったことで「肝が座ってるね」ってよく言われますけど、私自身は全然そんなこと思ってなくて(笑)。
――不安もなかったですか?
江頭さん なかったですね。興味あることや一度やりたいって思ったことには猪突猛進型なので。その意味では現場でも割とギリギリを攻める方かもしれないです。
――攻める?
江頭さん 追い払いのお仕事だと、対象のカラスやハトを探してマンションやビルの屋上とか高いところにも平気で上がっちゃうので、ときどき心配になった立ち会いの方とかに「大丈夫ですかー!? 怖くないですかー!?」って言われても「あ、全然大丈夫です」みたいな(笑)。
――肝、座ってますね(笑)。でもそれだけお仕事に夢中になれるってことですね。
江頭さん そうですね。現場のお仕事はおもしろいです。

――最後に、江頭さんにとって鷹はどんな存在でしょうか。
江頭さん 鷹は、なんだろう……。たとえば私たちの世界、鷹匠の世界では「鷹は人を写す鏡」って言われます。その鷹を見れば、担当の鷹匠の性格や日々の様子がわかるって。なので私の現し身みたいなものかもしれないです。現し身でありパートナー。ペットではないです。一線を引いた関係です。でも信頼がないと呼んでも帰ってこないので、信頼が成り立っている相棒みたいなものですかね。
――ということは江頭さんが担当した鷹はやっぱり肝が据わっていますか?
江頭さん やっぱり大胆ですかね、あの子たちも(笑)。
――鷹匠に興味を持たれた方へメッセージもぜひ。
江頭さん なかなか見る機会も少ないと思いますので、全然、私みたいに門を叩いちゃっていいと思います。最初は私も本当に何も知らなかったですし、動いてみたら、もしかしたらその先の人生が大きく変わるかもしれないです(笑)。
――そうですよね。今日はありがとうございました。
江頭さん ありがとうございました。
鷹匠 江頭千景さん
子供の頃からの生き物好きが高じて18歳で鷹匠の世界へ。厳しい訓練を経て実力を認められ、現在は4羽の鷹を担当する関東のエリアマネージャーとして精力的に現場を回っています。
株式会社グリーンフィールド オフィシャルサイト:https://gfhawk.com/