芸能山城組に聞く“群れ創り” 後編 — アマチュアだからこその芸能の頂点 — (月刊ステテコ7月号)

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@Ryu Itadani
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今月の絵『ガムラン』 by Ryu Itadani

芸能山城組に聞く“群れ創り” 後編 — アマチュアだからこその芸能の頂点 — (月刊ステテコ7月号)

 7月になりました。前回、月刊ステテコ4月号でご紹介した芸能山城組*による「ケチャまつり」がいよいよ新宿で7/29(水)から5日間にわたって開催されます。そして今回お送りする後編では、11月に控えた「幻響『鳴神』」公演を通じ、芸能山城組が挑み続けてきた“群れ創り”の真髄に迫りたいと思います。

 芸能山城組:科学者であり、芸術家でもある山城祥二さん(本名・大橋力さん)を組頭とするアーティスト集団。1974年の結成以来、アマチュアであることにこだわり、世界の民族音楽をフィールドワークしながら独自の芸能活動を展開。月刊ステテコ4月号では1960年代の同組の誕生から、現在のマルチ・パフォーマンス・コミュニティへ発展していく歴史をご紹介しました。

「群芸『鳴神』」が8年ぶりにパワーアップして「幻響『鳴神』」へ

「群芸『鳴神』」圧巻の黒龍昇天の場面(©️芸能山城組)

宮部さん 芸能山城組ではケチャまつりの他にステージパフォーマンスがあって、11月22日(日)に「幻響『鳴神』」(げんきょう なるかみ)という公演が決まっています。この作品は市川宗家の歌舞伎十八番『鳴神』を組頭の山城が換骨奪胎し、「群芸『鳴神』」として1978年から2018年まで定期的に上演されていました。それが今年8年ぶりに「幻響『鳴神』」というタイトルでパワーアップして甦ることになったんです。私は「群芸『鳴神』」を知らなかったですし、今回初めて経験することになるんですが、先輩たちからは「アマチュアだからこそできる芸の頂点だ」と聞いています。

―― アマチュアの頂点とはすごそうです。

宮部さん そもそもバリ島のケチャをやっている人たちも音楽・芸能のプロじゃなくて、普段はさまざまな仕事をしているアマチュアですが、ガムラン演奏も踊りもめちゃくちゃ上手だったりする。私はそれがずっと疑問だったんですが、考えてみればケチャやガムランに限った話じゃなくて、民族芸能って大体そんな感じがするなと。

ケチャまつりでの岩手県奥州市の奥山行上流餅田鹿踊保存会による「鹿踊」(ししおどり)のようす。芸能山城組では一部メンバーが保存会に弟子入りし研鑽を積んでいます(ともに©️芸能山城組)

―― プロじゃないのに高いレベルで芸能ができるということですか。

宮部さん そうですね。プロとはまたちがう次元というか……。例えば日本の鹿踊もそうですけど、踊りだけを教わったとしてたぶん、形としては踊れるようにはなるでしょうけれど、全然それは本質ではなくて。民族芸能を本気でやろうと思ったら何のために鹿踊があって、どういう人たちが踊っているのか? みたいな“意味”を知りたくなるし、行き着くと思うんですよ。

―― 民族芸能はその成り立ちからは切り離せないと。

小日向さん バリ島では社会の一員として大人になっていく過程のなかにケチャのような芸能があります。すべてそう。他のどんな共同体でも、本質的にその芸能だけ、音楽だけ、踊りだけを切り離して、自分の身を立てるようなルートというのは、私たちが対象にしているパフォーマンスの中には一切ない。それが重要なんです。

―― プロになるためのルートではない?

小日向さん なぜなら、それが西洋芸術へのアンチテーゼになっているから。西洋のパフォーマーはプロを目指すということが最初から方向づけられていて、もちろん、それも素晴らしいことですけれど、どうしてもプロの世界では競争というものが入ってきて、必要がないのに誰が1番なのか2番なのかを決めなきゃいけない。それによって価値が決まる。

 そうではなく、他と比較して優劣を決めなければならない要素が入ってこない芸能、そしてそれを支える群れを創る……これが文明批判なのかもしれません。「群芸『鳴神』」は、そんな考え方に基づいて創られた、芸能山城組にしかできないオリジナルパフォーマンスなんです。

――(ここで別の場所で稽古を終えた、ケチャまつり実行委員長の谷島さんが取材対応に駆けつけてくださいました)

宮部さん 「群芸『鳴神』」は、誰でも参加できる仕組みで創られたパフォーマンスなので、音楽、芸能経験、年齢は不問です。この記事を読んで山城組のあり方に共感された方は、勇気を出して(笑)、ぜひ参加していただきたい。そのこともステテコさんに書いてほしい。

小日向さん なぜならとにかく「群芸『鳴神』」は人数が要る(笑)。今年チャレンジする「幻響『鳴神』」は男性100人が必要で、そのために年始からケチャまつりも含めて人集めを頑張っています。作品のクライマックスで龍神が天に駆け昇るんですけれど、それを群れの芸で表現します。100人の男性の一人ひとりの背中が巨大な龍の鱗の1枚ずつになるんです。

―― すごい! 自分の背中が龍の鱗に!

谷島さん 「ちゃんと鱗に見えるように背中の筋肉をしっかり鍛えろ」と言われています(笑)。

小日向さん 今はまだ背中がおにぎりになってる人がたくさんいるんですよ(笑)。

「山城組のメンバーは大学生、会社員、教員、研究者などさまざまですが、全員芸能を生業にはしていない一般人です。拠点は東京で地方にもメンバーはいますよ」と、真っ赤な稽古着がお似合いの宮部さん

芸能山城組の門を叩くとどうなる?

―― 何かのきっかけで芸能山城組の門を叩くと、その先はどんなステップになるんですか?

宮部さん まずは毎月開催されている説明会へご参加ください。一通り話を聞いたうえで、参加してみたいと思われたら、「花若テスト」というものを受けていただきます。

谷島さん 私たちは研修期間中のメンバーを、花の若者組、略して「花若(はなわか)」と呼んでいるんです。

―― 素敵な名前ですね。テストは筆記ですか?

宮部さん 中身はシンプルで作文、体力チェック、面接です。これまでの話でお分かりだと思いますが、山城組は一般的な習い事やサークルとは異なるので、みなさんいろんな疑問がわくと思うんですよね。私もそうでしたし。その疑問を解消して、誤解なくスタートできるようにするために、花若テストが設けられています。

谷島さん 参加を希望する方の中には、いろんな誤解を持つ人もいるわけです。「ここでやったらプロの音楽家になれるんじゃないか」とか。私たちの活動は時間的にかなり拘束されるところもありますから、やっぱりお互いに無駄なく生産的にやっていけるように、すり合わせは必要ですね。それが花若テストのひとつの側面です。

宮部さん 要するに調整ですね。それをまとめてテストと言っているだけなので、ご心配なく。体力チェックも同様でベーシックな体力を確認しているだけですから、落とすみたいなことはありません。よっぽど不適合が見つかれば、相談して、どうやって群れの仲間としてやっていけるかを調整します。

―― 花若期間は大体どれぐらいなのですか?

谷島さん 人にもよりますが目安としては1年ぐらいかな。本組員と同じような活動を一緒に経験しながら、お互いにこれだったらやっていけるねとなったタイミングで。相互作用もありますから。

小日向さん 人によってすごく臨機応変に対応します。東京から遠いところに住んでいる方はちょっと時間がかかるでしょうし。これも文明批判じゃないですけど、一律に何か条件を全部決めなきゃいけないこと自体が、既成概念に汚染されている考え方じゃないかと

―― なるほど。

小日向さん 実質が相応しくなれば良いのであって、時間の長さはそれぞれの事情です。早い人は半年だってOKです。

煌びやかにガムランを演奏する芸能山城組のみなさん(©️芸能山城組)

群れとして能力を開く「ひと創り」

―― ケチャをやるのは男性だと思うのですが、女性が芸能山城組に興味を持った場合はどういう入り方を?

小日向さん ガムランもあるし、ブルガリア合唱もあるし、日本の踊りもあるし。

宮部さん みなさん動機はさまざまですよ。バリ舞踏を踊ってみたい。ブルガリア合唱が好き。『AKIRA』が好き。研究がやりたい。本当に人それぞれ。入口はひとつからでも、それしかやらないのはダメなんです。芸能以外も含めてマルチにやらないと。ケチャだけやりたい、ガムランだけやりたいっていう人はそもそも向いていない気がします。なんせ「群れ」なので。

谷島さん 例えば一般的なイベントだと裏方だけの人とかいますけど、芸能山城組は全部を自分たちでやる。専門分化してないんです。専門分化が近代文明社会のひとつの特徴ですから、できるだけ専門分化しない群れを目指しています。

小日向さん 結局それもバリから習ったことですが、私はケチャをやる人、私はガムランをやる人って専門分化すること自体が文明の問題なんです。バリの人たちは共同体の一員になったら全員が平均的に何でもできる。それが重要。かといって画一的なひとの群れを目指すわけではなく、そのなかで得意不得意は人によりますから、じつに多様です。

―― いろんな能力を開いていくというか。

小日向さん やっぱり得意な分野は自然と出てきますよね。それはもう全然抑えません。良いところはどんどん伸ばすけど、「私はこれだけしかやりません」というかたちで人を育てることはしないようにしています。

谷島さん 特に秀でた力を持っている。それは良いんですけど、凹んだところがあったらしっかりと穴埋めして、人間として、本来生まれて持ってきた活性をすべてリリースしていこうってみんなで心がけてますね。

2025年12月に行われた公演『「幻響」其之二〈転生〉』(©️芸能山城組)

アマチュアのスーパークオリティー

―― 今お聞きしたお話に加えてさらにすごいと思うのは、昨年12月のなかのZEROの『幻響』公演とか、YouTubeで見たケチャまつりは、素人目にはまったくアマチュアとは思えない圧巻のクオリティーでした。

小日向さん そうおっしゃっていただいてありがとうございます。稽古ではどれだけ叱られてきたことか(笑)。世界のアマチュアの人たちのレベル、バリ島のケチャやガムラン、アフリカの狩猟採集民の音楽のレベルがどれほどすごいかを実際に見ているので、まだまだだと思っています。

―― やっぱりすごいんですか?

小日向さん いや、すごいです。ご覧いただいたステージの100倍は違います。それは本家本元、何百年という伝統の共同体で、盤石な群れの基盤のうえに究極的な感性と技で実現しているものですから。

谷島さん みなさん、お百姓さんだったりするわけですよ。本当にアマチュアの芸じゃないです。

宮部さん 一生、追いつかない。

―― そんな、ちがうんですか!?

みなさん一同に 全然ちがう(笑)。

―― それほどまでとは……すごいですね。

小日向さん とはいえ、私たちはただ芸能のクオリティーを上げることだけを目指しているわけではありません。文字に書かれた規約やルールによって運営されている近代的な組織のスタイルではなく、さまざまな活動を日常的に共同してやっていくことで、互いに助け合いながら一人ひとりのセンスを高める。安全安心で心地よい群れを養っていく。

 まずは生き物の群れとして、モラル・エチケット、共感力、協働力、洞察力、直観力、言語だけではないコミュニケーション力、表現力などなどを磨き、月並みな言葉で言えば、群れの「民度」を高める。それが結果的に芸能に反映すると考えています。反対に、芸そのものを磨いていくなかで群れの力も磨かれるということもあるのですが、まず芸は群れなしには成り立たない。芸は結果だと思います。クオリティーを評価していただくことは大変ありがたいですがまだまだ。私たちはたった50年です。とてもとても成熟した群れにはなっていないと思います。

谷島さん 私たちにはひとりだけで演じる“ピン芸能”みたいのはないんですよね。本当にシステムの妙。なので、互いに群れをしっかりと作っていくと芸能がさらに磨かれていくし、それを通してまたみんなの絆が強まっていく。相乗効果じゃないですかね。

小日向さん まさに「音楽・芸能はそれを生み出した社会を映し出す」というように。芸能山城組の群れが、少しずつはまともになってきているのかもしれないですね。

宮部さん バリ島はお手本ですが、日本でまったく同じことはできません。日本社会も世界もものすごいスピードで変わっていきますから。変化し続ける環境に対して山城組の群れのあり方も今後ますます工夫が必要になってくる。群れの持続可能性の模索も必須だと思います。

芸能山城組の活動は書籍からも知ることができます。左から『ハイパーソニック・エフェクト』(大橋力 著/岩波書店)、『音と文明』(大橋力 著/岩波書店)、『群れ創り学』(山城祥二 著/徳間書店)

―― 衣装もみなさんで作ってらっしゃるんですか?

小日向さん そうそう。いろんな衣装があって、これは縦しまの……(*先出の公演『幻響』で着用されていた衣装)

谷島さん 「しましま」って、僕たちは呼んでます。

小日向さん 濃紺の縞模様の貫頭衣みたいな衣装は、朝倉摂先生*という著名な舞台美術家によるデザインです。朝倉先生は女性の舞台美術家としては草分けの方。組頭の山城を演出家として、また芸能山城組を表現集団として評価してくださり、いろんな支援をしてくださいました。そもそも「群芸『鳴神』」誕生の仕掛け人のお一人でもあり、その舞台美術をやってくださいました。

 芸能山城組はさまざまな民族のパフォーマンスを演じることから始まったので、その際はその社会の伝統衣装を着用することが多いのですが、オリジナル衣装というものがありませんでした。そこで朝倉先生が、芸能山城組のためのオリジナルステージ衣装をデザインしてくださいました。

*朝倉摂(1922 - 2014):戦後の日本芸術界に多大な貢献をもたらした舞台美術の草分け。

―― みなさんすごく似合っていました。

小日向さん モダンでありトラディショナルであり、私たちのようにアマチュアで身体の動きがそれほど訓練されておらずキマるわけでもないところを、これをまとっていればボロが出にくいと。視覚的にも相当なインパクトがありますよね。デザインだけでなく機能的にも絶妙な衣装です。朝倉先生は舞台デザイナーとして天才的に優れた人だと思います。

谷島さん そういえば、ステテコを舞台衣装にした人もいますよ。ひとり。

―― どういうことですか!?

小日向さん 「群芸『鳴神』」の最後は祭りの場面になって、全員仮装するんですが、これが現代も伝統もあったもんじゃなく、なんでもありで。山城のこの場面の演出は「とにかくありえないものが混沌として出てくる時間、場所、設定がよい」というコンセプト。究極のハレの空間をつくるクライマックス、祭りのシーンなので、想像を絶するものが出てくるほどよいのです。

 しかもどんな仮装をしてどんな表現をアウトプットするかは、それぞれ自分で考えて工夫することに委ねられている(笑)。つまり一人ひとりが演出家でもあるんです。しかし、一定の制御システムが働く仕掛けも埋め込まれていますから、どんなにはちゃめちゃなことをしても大丈夫なように創られています。

―― どんな格好をしても良いのですか?

谷島さん はい。最初は粗末な布を着た農民の姿で雨乞いをやって龍を解き放ち、雷が鳴って雨が降る。すると雨が降った途端に舞台は祭りになっていく。黒龍昇天の場面から祭りの場面まで、後半は電子音楽が流れてなんでもありの仮装フェスティバルになっていきます(笑)。そのなかで、かつてあるメンバーがステテコに腹巻、点滴に「酒」って書いたボトルをぶら下げて究極の酔っ払いを演じました。これはアンケートでも大好評でした(笑)。

―― お見事! 今日は本当にありがとうございます。もうお腹いっぱい過ぎます(笑)。

谷島さん 僕ひとつ最後に申しあげたいのですが、以前までステテコなんて穿いたことなかったのが、2年前の芸能山城組創流50周年のときに、お祝いの儀式があって紋付袴を穿いたら、なぜかステテコがないと落ち着かない。

 親父から譲り受けた着物を正月に着るときにも、やっぱりステテコを穿いているかどうかで全然ちがうんですよ。だから、時代の流れのなかで文化が変わってステテコが廃れていっちゃったけど、新たな快適性に着目して昔とはちがう、新しいステテコの世界を創り上げたっていうのは、ケチャまつりと同じような面があるなと。

 ケチャまつりは、祭りが廃れて時代遅れだといわれていた1970年代に、昔の祭りをそのまんま復活させるのではなく、バリ島の絆の芸能「ケチャ」に着目し新たに創られたものですが、半世紀以上続いているんですよね。どこかオーバーラップするものを感じます。

―― そう言っていただけて、すごくありがたいです。

小日向さん ステテコが気持ち良いってのは、人間の遺伝子に書いてあるから大丈夫じゃないですか。不動ですよ、きっと。

研究用の特殊なスピーカーでハイパーソニックをたっぷり浴びながらのインタビューでした

 というわけで予定していた取材時間を大幅にオーバーしたにも関わらず、終始ご丁寧にお話を聞かせてくださいました。ご興味を持たれた方はぜひ、下記情報をチェックしてみてください。

芸能山城組の2026年の主な活動予定

ケチャまつり

729()82() 

新宿三井ビルディング55HIROBA

「幻響『鳴神』」公演

1122日(日)

なかのZERO大ホール


最新情報は公式サイト、SNSでご確認ください

芸能山城組公式サイト:www.yamashirogumi.jp

X@yamashirogumi

Instagram@yamashirogumi_official

*ケチャまつりは観覧するだけでなく、ご自身が参加することもできます。ケチャ体験稽古は現在も実施されていますので、ぜひ上記SNSなどで詳細をご覧ください!!

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