Slow Food Nipponに聞く、サステナブルでは間に合わない食の危機(月刊ステテコ6月号)

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@Ryu Itadani
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今月の絵『産地直送』 by Ryu Itadani

Slow Food Nipponに聞く、サステナブルでは間に合わない食の危機(月刊ステテコ6月号)

 6月になりました。季節の変わり目でもあるこの時期は、来る夏バテ予防の意味でも食生活への配慮が肝心です。また最近ではスキマ時間やタイパ術といった言葉があるように、つい効率ばかりが求められがちな時代だからこそ、ゆっくりと食について考えてみることも必要なはず。そこで今回は「日本スローフード協会」代表の渡邉めぐみさんにお話を伺ってみました。

インタビューに応じてくださった代表の渡邉さん

 スローフード:1989年にイタリアで始まった食と環境と生産者を守るための草の根運動。もともとはファーストフードへの対義語でしたが、時代とともに運動は発展し、現在はおいしく健康的で、環境にやさしく、生産者がちゃんと評価される食文化を目指した運動に。渡邉さんはその日本での運営団体「日本スローフード協会(通称:Slow Food Nippon)」の代表を務めていらっしゃいます。

―― 最初に、渡邉さんとスローフードとの出会いについて教えてください。

渡邉さん スローフードと出会ったのは大学生の頃です。子どもの頃から食べ物が中心にあるような家庭で育ってお料理に憧れていたので、大学を卒業した後も料理の道に進みたいと思っていたんですけど、ある時、きっかけがあって。

―― どんなきっかけだったんですか?

渡邉さん ある日、アルバイト先の厨房でランチに出すお魚を解凍していたら、バイトの男の子が「その白身魚はどこのお魚ですか?」ってお客さんから聞かれたって言うんですけど、私は分からなかったんです。横で店長もお料理してたんですけど、店長も知らなくて。

 私が当時働いてたお店は、材料がどこから来て、それをどう調理するかよりも、日々の営業を回すことを考えるようなお店だった。でもそのことがあってから私は「どこから来たお魚を調理しているのか知らなくても、平気で生きてこられた世界って不思議だよな……」って思うようになったんです。

 突き詰めて考えてみたら、経済性を重視した社会システムというか、構造自体に歪みがあることに気が付いたんですが、私1人がアクションしたからといって大きく変えられるものではないし、なかば絶望的な気持ちになってた頃にイタリア発祥のスローフードというムーブメントを知りました。

―― 直接、スローフードを知ったのは?

渡邉さん 大学の授業です。ヨーロッパ文化についてのオムニバス形式の講座だったんですけど、「スローフードジャパン」という現在の前身組織で副会長をやられていた石田雅芳さんが来たときの講座がすごくおもしろくて。それからいろいろと本を買って読み漁っていました。

―― 日本でもスローフードに関する本が出ていたんですね。

渡邉さん 作家の島村菜津さんが書いた『スローフードな人生!』という本があって、2000年ごろ日本で流行したスローフード運動のきっかけにもなったんですけど、「このスローフードムーブメントは一体何なのか?」みたいなのが、すごく勢いのある文章で書かれていました。それからスローフードの創設者のカルロ・ペトリーニが書いた本が翻訳されていて、それらをボロボロになるぐらい読んでいましたね。

 

世界中の仲間がつながるスローフードのネットワーク

―― イタリアの小さな村で産声を挙げたスローフード運動が、世界に拡大していったのはなぜなのでしょうか?

渡邉さん 地域固有の問題ではなく、ユニバーサルな観点だからだと思います。もともとスローフードという言葉はファーストフードへのカウンター的な言葉だったんですが、世界がぜんぶスローフードになればいいとかではなく、ファーストの方ばかりに傾きすぎないようにバランスを取ろうというスタンスが響くんじゃないかなと。

 それから日本語で「運動」って聞くと、何かに怒っているイメージがあると思うんですけど、スローフードはとことんピースフルで楽観的なんです。もちろん抱えてる問題とか、唱えてる問題は大きいし、本当に深刻ではあるんですけど、でも結局は「おいしいものを食べ続けるためにはどうしたらいいんだ?」って真剣に考える、食いしん坊の集まりみたいなところです(笑)。

―― シンプルだけど深いですね(笑)。

 

食の祭典「テッラマードレ」

渡邉さんが参加した「テッラマードレ」にて

―― スローフードを象徴する活動としては、どんなものがありますか?

渡邉さん 2年ごとにイタリアのトリノで開催される「テッラマードレ(=母なる大地)」という大会があるんですけど、世界中からたくさんのスローフード関係者とかユースネットワークが集まってきて、私は2014年に初めて参加しました。

 その初めての会場で、突然メキシコ人の子に「ちょっと手を出して!」ってパラパラパラって粉を乗せられて「これ持って!」ってお酒の入ったショットグラスを持たされ、「粉を舐めて飲んで!」って言われて飲んだらすごくおいしかった。そしたら「これ何か知ってる? チャプリネスの粉*とメスカル*。僕はこれを守る活動してるんだ。あっちにもまだいっぱいあるから後で飲みに来てね!」ってわーって行っちゃって(笑)。

*チャプリネスの粉 : イナゴの一種を塩、ライム、唐辛子、ニンニクなどで炒ったメキシコの伝統食。先住民由来の食文化を象徴する料理。

*メスカル : 主にリュウゼツランから作られるメキシコ特産の蒸留酒。たくさんの種類があり、日本で有名なテキーラもその一種。

―― 一瞬の出来事ですね(笑)。

渡邉さん そのときは完全に圧倒されたんですけど、数日後その子が公式プログラムで活動報告をしていたんです。製造者が減って無くなりかけていた伝統のお酒を、若い人にも受けるようにリブランディングして後継者を見つけるんだ、みたいな話をしていて「そういうことか!」って(笑)。

 そのメスカルを作ってるのはメキシコの先住民のコミュニティなんですけど、やっぱり政治的に搾取されてたり、制度的に冷遇されてる人もいる。そもそも所属する社会階層が違って、その壁を超えられないという問題もあるんですよね。

 失われつつあるひとつのお酒を守るためには、リブランディングのためのデザインスキルも要るし、既成の社会制度に意を唱えて政治参加するような側面もあるし、「食」ってなんて複合的なテーマなんだろうと考えさせられました。

 

いかに「おいしい」の未来を守るのか

―― 「世界生産者会議」としてのテッラマードレでは近年、どんな議題があがるのですか?

渡邉さん 世界全体で言うと、「サステナブル」ではもう間に合わないという話を……。

―― え、間に合わない?

渡邉さん サステナブルは「持続可能」という意味ですけど、要は維持するってことじゃないですか。でも今は気温がどんどん上昇して土壌が痩せて栄養価が下がり続けている。維持よりも先にその状況を回復させなければいけないんです。現状維持をしていたのではどんどん痩せていくスピードを止められないんです。

―― なるほど。

渡邉さん なので今はサステナブルという言葉よりもリジェネラティブ(=再生可能)やアグロエコロジー(=農業生態学)を重視してるんです。アグロエコロジカルな農業を実践する人たちを増やして、どんどん横に繋いでいかないといけないっていうのが1番のホットトピックですね。

―― アグロエコロジカルな農業?

渡邉さん スローフードとしては、外的なものに頼る農業モデルよりもアグロエコロジー的に考えた方がレジリエンス(回復力)が高いと言ってきたんです。食べ物だけじゃなく肥料やエネルギーもそうですけど、世界情勢が不安定になって、いつどこのパイプラインが切られるかわからない時代ですから、規模の大小に関わらず、その農場に必要な水、エネルギー、土の栄養などを、いかに自給できるか考えた農業モデルを普及させていかなきゃいけないし、世界はその視点をもっと理解しなきゃいけない。

 実際、外的なものに頼らない農業モデルで作られるものは一般流通してるものよりもどうしても高くなるのだけれども、長い目で見れば、その方が結局は買う人、作る人、自然のためになる。自然のためになるということは巡り巡って自分たちのためになることですから、そういう啓発の必要性が、力を入れて話し合われていますね。

 

ファーマーズファースト

テッラマードレ2024に日本代表として参加したみなさん

―― 日本のスローフード活動はいかがですか?

渡邉さん アグロエコロジーの話にも繋がるんですけど、日本ではもっとシンプルに「ファーマーズファースト」という標語を掲げていて、これはアメリカのアリス・ウォータースというスローフードの活動家がよく使う言葉なんですけど、この場合のファーマーは漁師さんとかも含めて広い意味での生産者です。生産者の方々がいないと食べれないから、最初に彼らのことを考えようよっていう。

―― 食を支える人たちですね。

渡邉さん 特に今、日本の農家の平均年齢は68歳で、数年前からそれ以上は上がらなくなったんです。どういうことかというと、70代後半の農家人口のボリュームゾーンがどんどん引退しているからです。そんな大離農時代みたいな中で農業を担う20〜40代の若い世代を、私たちはできるだけ讃えたいと思っています。

 離農が進む集落で農業を始めた起業家精神を持った人とか、レジリエンスの高い、アグロエコロジカルな考え方で農業をしようと思ってる人と一緒にイタリアのテッラマードレに行って、世界中の生産者やレストランの経営者とかスローフード活動をしている人たちと交流することで、未来への原動力を得てもらうっていうのが、今の日本の活動として大切にしていることですね。

 

スローフードは心の支え

スローフード入門としておすすめの『スローフードな人生!』著:島村菜津(新潮文庫)と『スローフード宣言』著:アリス・ウォータース(海土の風)

 

―― 渡邉さんの暮らしにとって、スローフードとはどんな存在ですか。

渡邉さん なんとなく精神安定剤みたいな感じだと思います。食べ物に限らず、自分の暮らしって完璧にこなすのは無理じゃないですか。私もファーストフードに頼る場面だってあります。でもスローフードの考え方が自分の中に土台としてあるという感覚はすごく精神的な安定をもたらしていると思います。何か選択を迫られたらどう選ぶべきかわかるようになったとか、たとえ妥協案を選ばなければいけなくても、その理由をちゃんと自分の言葉で説明ができるとか。パーフェクトじゃなくても、考えなしに何かを選ぶことをしなくなっていると思います。

―― それは素晴らしいですね。

渡邉さん ときどき大学などから講義の依頼をいただいてよく言うのですが、「考えて選ぶのと、考えないで選ぶのでは、たとえ同じものを選んだとしてもぜんぜん違うんだよ」って。ファーストフードをやめなさい、ということではなく、考えて選んでみてくださいっていう。それだけでいいと思うんです。

―― 最後に告知的なことがあれば教えてください。

渡邉さん イタリアのテッラマードレが今年の9月に開催されます。誰でも参加できるイベントなので、もし興味があったらぜひSlow Food Nipponにコンタクトしてみてほしいです。それから来年の秋には日本でのテッラマードレを北海道で開催したいと思って準備中です。そのほかにも事務局がサポートしている全国の活動団体がグループごとにいろんなイベントやっていたりしますよ。

―― 自分の住んでいる地域に活動団体があれば、まずはそこへ問い合わせるのもいいですね。今日はありがとうございました!

渡邉さん ありがとうございました。

一般社団法人日本スローフード協会

オフィシャルサイト:https://slowfood-nippon.jp

インスタグラム:@slowfoodnippon

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