

今月の絵『天体望遠鏡』 by Ryu Itadani
国立天文台に教わる、この夏に絶好の観測チャンスがくるペルセウス座流星群とは!?(月刊ステテコ8月号)
8月になりました。元気なセミの鳴き声や、気持ち良い海水浴、みずみずしいスイカなど、夏ならではの自然がたくさん楽しめますよね。そこで今回は「国立天文台」天文情報センターの佐藤幹哉さんを訪ね、今夏に絶好の観測チャンスを迎えるという三大流星群のひとつ「ペルセウス座流星群」についてお話を伺ってきました――

流れ星のことをたくさんお話してくださった国立天文台天文情報センターの佐藤幹哉さん
流れ星を見たい!
―― そもそも流れ星は市街地でも見れるのでしょうか。
佐藤さん 流れ星には明るいものから暗いものまでいろいろありますが、基本的には市街地でも見ることができますよ。ただどうしても街灯や看板が明るくて、空を白く照らしてしまったり、視界に入ったりすると見えにくくなる。流れ星を見るには暗さに目を慣らす必要があるので、もしも市街地なら、それらが視界に入らないようにするとか、ちょっと離れたりするだけで見やすくなると思いますよ。
―― 「暗さに目を慣らす」というのは……
佐藤さん 「暗順応」って言って、人間の目は明るいところから暗いところに行ったとき、暗いものが急には見えてこないんです。ちょっとずつ暗さに慣れて見えてくるんですね。なので暗いところに行って見て、例えば5分ぐらいで「流れなかったなぁ」って諦めてしまうと、目が慣れる前に終わっちゃうんです。
―― それは勿体ないですね。どれぐらいで慣れるのでしょうか。
佐藤さん 最低でも15分ぐらい。目の感度みたいなものが少し変わるのと、瞳孔もちょっとずつ開いていって、この2つの効果で暗いものが見やすくなると。
―― その間は光を見ない方が?
佐藤さん 人間の目は明るいものを見るとすぐ慣れてしまうのですが、そこからまた暗いところに慣らすには時間かかってしまうんですね。だからスマートフォンとかもあまり見ない方が良くて、どうしても見るのであればできるだけ輝度を下げたり、赤っぽい光になるナイトモードなどを使うと良いと思います。
一般的に赤い光は暗さに慣れた目にやさしい色とされていますので、本当は夜の天体観測には懐中電灯も2種類持ってるといいんですよ。移動するときは白い方で足元を照らして、観測中にメモを見たりするときは赤い光の懐中電灯で。
―― もしも月が出ていたら、なるべく見ない方がいいのですか?
佐藤さん まさにそうです。月はすごく空を照らすので、出てるだけで見える流れ星が半分、あるいは半分以下まで減るときもあります。月の光って本当に強いんですよ。なので、月明かりの影響を受けない「新月」と重なる今年はペルセウス座流星群を観察するのに好条件というわけなんですね。

ペルセウス座流星群と放射点©️国立天文台
今年は8月13日が観測ピークの「ペルセウス座流星群」とは
―― そもそも流れ星の正体は?
佐藤さん 正体は砂つぶみたいなものなんです。あんなに明るく見えますけど、実は1ミリとか、せいぜい1センチぐらい。穴ぼこがいっぱい空いた軽石のようなイメージだと言われています。流れ星自体はとても小さなものなんです。
―― 光ってる大きさはどれぐらいなんでしょうか。数十メートル?
佐藤さん 多分そこまで大きくはなく、もっと近傍のところでせいぜい何十センチで光ってると思われます。なぜ光るのかというと、地球の空気とぶつかるときに空気を押し込むことでエネルギーが生まれていろんな反応が起こるからなんですね。
―― 1ミリの砂つぶが空気を押し込む……
佐藤さん そうです。ぶつかりながら空気の中の酸素や窒素が光ったり、流れ星自体も熱くなってバラバラになったり、溶け出しながら落ちていくんです。とても小さいけれど運動エネルギーはすごく大きくて、ペルセウス座流星群だと1秒間に60キロ近い速度が出ています。
―― ものすごいスピードですね。

佐藤幹哉さんが撮影したペルセウス座流星群(2013年8月12日22時52分~13日1時26分 長野県立科町※流星が写った13コマを合成)
佐藤さん 太陽系空間って不思議で、そんな小さなものでも太陽の引力に引かれていて、地球の公転と同じようにいろんなところを回っています。その中に砂つぶの流れみたいなところがいっぱいあって、流れ星が流星群となってたくさん降ってくるように見えるのは、地球がその砂つぶの流れの中に入っていくからなんですね。
川に例えると、川の中では水が上流から自分に向かって流れてくるのと一緒で、砂つぶも同じところから飛び込んできます。それを地上から見ると夜空の四方八方に放射状に降っているように見える。その放射点がペルセウス座にあるので、ペルセウス座流星群と名付けられているわけです。
―― 流星群はどうやって生まれるのですか?
佐藤さん 流星群を生み出している親玉は主に「ほうき星」ですね。「彗星」とも言います。よく汚れた雪だるまのようなイメージに例えられるんですけど、元々は凍った氷と砂つぶ、あとチリみたいなものが混ざってガッチリ固まってるものなんです。
それが太陽に近づいたり遠ざかったりしていて、遠いところでは氷のままですが、太陽に近づくと熱を受けて溶けるというよりも急にガス化する。そのとき一緒になって出てきた砂つぶの中で、1ミリとか比較的大きいものたちが周辺を漂っている感じです。

太陽黒点の観測や太陽全体の写真撮影が行われていた「第一赤道儀室」と佐藤さん
流星群と親玉の関係
―― 流れ星の正体はいつどうやってわかったのですか?
佐藤さん ペルセウス座流星群のように流れ星がたくさん流れる「しし座流星群」というのがあって、それが1833年にアメリカでいっぱい流れて、広いアメリカのどこで見ても同じように流れる。しかも、しし座に放射点があることが分かったんです。どこから見ても同じように見えるということは、近くで飛んでるものではなく、もっと遠くから地球の近くに降っているものだということが初めてわかりました。それが1833年。
そのことがあって、ペルセウス座流星群も同じような仕組みかもしれない……となり、1862年に発見された「スイフト・タットル彗星」というほうき星の軌道上に地球が交わるときにペルセウス座流星群が見えるのでは……と、気がつく天文学者が現れて解明されていった感じですね。
―― 「解明する」というのはどういうことですか。
佐藤さん 物理の法則に沿って計算をしていくことになりますね。基本はいわゆるニュートンの万有引力とか、ケプラーの天体の運動とかとまったく同じことです。それに沿って、地球はこう動いて、ほうき星はこう動いて、同じように砂つぶが流れてくるとすると、地球の軌道はこうだから、その間ではこう見えるはずだ、その方向は……なんとペルセウス座になるじゃないか! おお! っていう感じです(笑)。
―― ペルセウス座流星群の解明は、1862年のスイフト・タットル彗星の発見が大きかったんですね。
佐藤さん 一般的にほうき星が帰ってくる頃に流れ星も増えることが多いんですね。スイフト・タットル彗星は130年周期で地球の側を通るので、1991~1992年にペルセウス座流星群が例年より増えて、その9月にスイフト・タットル彗星が戻ってきたときは、やっぱり流れ星が増えた原因は親玉が近づいていたからなんだって、思い返すと今でもドキドキします。

太陽系の惑星間の距離を140億分の1で現した「太陽系ウォーク」の説明をしてくれる佐藤さん
流れ星に欠かせない大気
―― ペルセウス座流星群はいつからあったのですか?
佐藤さん 流星群には古くからずっと見えてるものと、最近になって見えてきたものといろいろですが、ペルセウス座流星群に限らず、流星群は地球とか太陽系の歴史から考えると新しく起きてる可能性が高いですね。
―― 地球の方が先に誕生したと。
佐藤さん そうですね。地球の大気ができあがらないと流れ星という天体現象は起こらないので、大気は必要です。例えば月は大気がないので、直接ボンっと落っこっちゃうんですよ。比較的大きい砂つぶがぶつかった衝撃で光ったりするのをずっと観測してる研究者もいますよ。
―― 流れ星の衝突が見えるんですか?
佐藤さん これが見えるんですよ。もちろん月も光ってる面と影になって欠けてる部分がありますよね。光ってる部分にぶつかって光るのを見るのはなかなか難しいんですが、暗いところは実際に観測されてます。それから火星ぐらいの薄い大気でも流れ星は見えるんですけど、その分、地球よりもっと低いところで光ってるだろうと考えられています。

佐藤幹哉さんが撮影したペルセウス座流星群(2018年8月13日22時32分 長野県立科町)
花火のような流れ星
―― 流れ星は実際どんな色をしているのですか?
佐藤さん 原則としては白いものがやっぱり多いです。人間の目は暗いものを見るときには、色の情報をあまり感じないように見てるというのがあって、視細胞には2つあるんですよ。色を感じて詳しく見る細胞と、暗いところで発揮する明暗に特化した細胞とがあって、暗い夜空を見ていると色のことがあまり感じられないため、大体流れ星というのは白っぽく見えてしまうのです。
―― 暗順応の15分間で視細胞を切り替えていたなんて。人間ってすごいですね。
佐藤さん それがまずひとつと、もうひとつは実際にはいろんな色が混じってる。
―― 虹みたいに?
佐藤さん イメージとしては近いです。緑、黄、青、赤っぽいオレンジとかが混ざってどっちつかずになって、実際には白っぽく見えてしまうんですね。
―― たくさん色が混ざっているんですね。
佐藤さん はい。流れる途中で色が変わることもありますし、長く光る物質もある。それから流れ星は尾っぽみたいなものを引いて流れることもあるので、写真に撮ったときに、その尾っぽに残る色だけが強調されちゃうんですよね。その場合は緑とかオレンジの色が濃くなって写ります。
―― 花火みたいです。
佐藤さん 確かにそうですね。花火も物質の炎色反応で似たようなことが起こってますよね。

主に星の位置測定を行ってきた巨大な「65センチ屈折望遠鏡」を見上げる佐藤さん
佐藤さんと宇宙の不思議
―― 佐藤さんはなぜ天体が好きになったのですか?
佐藤さん 『ハクション大魔王』というアニメの最終回に「月食」の話が出てきて、月食って地球の影に月が入り込んで欠けていく現象なんですけど、それが起きるとハクション大魔王は壺の世界に戻らないといけないのです。100年間も。
―― 長いお別れになるから、最終回という。
佐藤さん 戻ってほしくない周りの人たちはなんとか紐で縛ったりするんだけど、最後はやっぱり月食が起きて戻っていっちゃう。普通なら寂しい話だな、で終わるのかもしれないのですが、僕はなぜ月食が起きるのを予測できるんだろうって……そっちの方に興味を持ったんですよね。
―― 何歳の頃ですか?
佐藤さん 小学校の低学年くらいで、それがきっかけで天文学に興味を持ったことをはっきり覚えています。
―― すごい。『ハクション大魔王』がきっかけなんて素敵ですね。
佐藤さん 変な話なんですけども(笑)。そこから星の本を読んだりして学んでいったのですが、どうやら宇宙には不思議なことが起きるぞっていうことに気がついたのが大きかったですね。

構内の天文台歴史館には展示資料がたくさん。「アンドロメダ銀河 M31」の写真乾板もありました
―― 専門が流れ星になっていったのは?
佐藤さん 1972年に「ジャコビニ流星群事件」というのがありました。今は「10月りゅう座流星群」って名前が変わっちゃってるんですが、1972年にそのジャコビニ流星群がたくさん流れますよって、この国立天文台の前身である東京天文台からも発表されていた夜に1個も流れなかったんです。
―― 1個もですか!?
佐藤さん 本当に1個も流れなかった。僕は当時5歳で事件のことは記憶にないのですが、後からそれを本で読んで知って「予測が外れて1個も見えないことがあるなら、逆に予測しないときにたくさん見えることもあるだろう」って思いました。
―― なるほど。
佐藤さん すると実際にジャコビニ流星群は流れないと言われていた1985年の夕方の空に結構な数が流れたことがあって「やっぱり起きた!」って天体の不思議にますます惹かれて(笑)。
―― スイッチが入ったんですね。
佐藤さん そうなんです。で、ペルセウス座流星群に話を戻すと、国立天文台のウェブサイトではハワイ観測所のすばる望遠鏡の「星空ライブカメラ」というのがあって、現地の星空をずっと流しているのですが、2021年の夏にペルセウス座流星群が予想以上に流れていることにたくさんの視聴者が気がつきました。普段の極大(出現のピーク)としている数よりも2倍以上、しかも極大からは1日半も経っていたのにです。このことについてはまだ誰も解明できていません。私も含めて、世界中の天文学者がまだ手に負えていないんです。
―― 佐藤さんのワクワクが伝わってきます。
佐藤さん これまでお話ししてきたことを踏まえると、今年の8月のペルセウス座流星群に何かが起こっても全然不思議ではないということです。たった5年前に起きたんですから。
―― 楽しみになってきました(笑)。

佐藤さんがおすすめしてくれた『天文ガイド』と『星ナビ』
星の雑誌の紹介
―― では最後に、流れ星についてのおすすめの本をご紹介いただけますか。
佐藤さん 流れ星の情報についてはこういう月刊の雑誌が出てるんですよ。実は去年の9月からこの『天文ガイド』の「流星ガイド」というコーナーを担当していて、毎月、その月に見ることができる流れ星や流星群のご紹介しています。
―― 流れ星専門の連載をお持ちなんですね。
佐藤さん でも『天文ガイド』は専門誌で若干難しいかもしれないので、月刊『星ナビ』という、もうちょっと入門向けの雑誌もあります。月々の天文現象をご覧になるにはぜひ参考にしていただくと良いかなと思います。
それから国立天文台のウェブサイトの星空情報というページで、今年のざっくりとしたペルセウス流星群の情報も一般向けに、これだけ読めばわかりますよぐらいな内容も掲載されてますのでね。そちらもぜひ。
―― 今日はありがとうございました!
佐藤さん ありがとうございました。
国立天文台 三鷹
前身である東京天文台として1924年に麻布から移転され、以来、日本の天文学の発展をリードし続けてきました。三鷹市の豊かな緑に囲まれた構内では最新の天文学研究が行われている傍ら、宇宙の謎にワクワクできる一般向けの見学施設も充実しています。
オフィシャルサイト:https://www.nao.ac.jp/
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