ブータンのしあわせと、雨(月刊ステテコ 6月号)

ryuitadani_57
@Ryu Itadani
@Ryu Itadani

今月の絵『サムテリン宮殿』 by Ryu Itadani

ブータンのしあわせと、雨

 6月。そろそろ梅雨が近づいてきますが、どうしたら雨の日をより快適に過ごせるのか。あれこれ思案していたら、いいことを思いつきました。それはこんなことです。

 ――もしかしたら「しあわせの国」として名高いブータンの人々なら、私たちが気がついていない「雨とのしあわせな関係」をたくさん持っているのではないか?――

 そうひらめいて「日本ブータン研究所」へ取材を申し込んでみたところ、ありがたく快諾いただき、代表の平山雄大先生にさっそくお話を聞いてきました。

お話を聞かせていただいた平山雄大先生

 ブータンのステテコ事情

 それは取材のために用意していただいた白い部屋に入ってすぐ、まだ緊張しながら準備をしているときでした。斜め前に座った平山先生がおもむろにこう言ったのです。

「いやぁ。ブータンの人、ステテコ穿いていますよ……」。

 え!!!!! 用意してきた質問をのっけからすべて吹き飛ばしてしまうような衝撃発言にうろたえる私を落ち着かせるように、平山先生はおだやかに続けます。

 いわくブータンはとても標高が高く、首都のティンプーは2300mくらい。日本でいえば富士山の5号目ほどの高さでとても寒い。そして「ゴ」と呼ばれるブータンの男性用衣装は下部がスカートのような形状になっているので脚がスースーする。普段は下着とハイソックスだけで大丈夫だが、冬はそれだけだと寒いので、中にステテコを穿いているのだそう。本人たちがどう呼んでいるのかはわからないが、日本人から見たら、あれは間違いなくステテコだろうと。

 冒頭から何というおどろき……。ならばそれはブータン製なのか、素材は何か、どんな世代がどこから入手して穿いているのか、ステテコドットコムと友好関係を結べないだろうか、などと聞きたいことが次々に溢れ出てきましたが、この日は「ブータンと雨」を聞きに来ていたので、グッと堪えてまたの機会に。

 ほどほどな天気予報

 気を取り直して、用意して来た質問に。日本人にとって天気予報はすっかり日常の一部であり、予報に頼ってスケジュールを立てるのがあたりまえですが、果たしてブータンではどうなのでしょう? 聞いてみると「あまり参考にしている人はいないんじゃないかなぁ(笑)」と意外な答え。ブータンはヒマラヤ山脈のふもとの山国ゆえに天気が変わりやすく、一日の予報に太陽と雲と雨のマークが一緒に並んでいることもしばしば。「雨が降ってきたらやむまで待とう」というおおらかな国民性で、自然の方に自分たちを合わせて暮らしているのだそうです。

 きれいな水とこわい水

 また、ブータンは7000m級のヒマラヤから流れる雪解け水が豊富で、いたるところに川があって水力発電も盛ん(電力は外貨獲得のための貴重な輸出品)。流れる水は底が見えるほど綺麗で、わざわざバスを止めていつまでも川を眺めているインドからの観光客をよく見かけるのだとか。

 しかし雨期となる6月~9月は大雨による洪水問題が深刻で、土砂崩れで道路が寸断されると1週間も物流が止まってしまうこともあり、平山先生も何度も旅のスケジュールに影響して、今では「あきらめの精神がついたかもしれない(笑)」と言います。

 祝福された雨の日

 今回お話を伺っていて最も印象的だったのが「Bressed Rainy Day」という祝日が9月にあること。雨期が終わり収穫の時期が来て、作物を育ててくれた雨に感謝するというその日、チベット仏教では、ブッダが天から特別な霊薬を降らせることで、国内すべての天然水資源が神聖になるとされ、人々は蓄積した悪行やけがれを清めるため露天風呂に入ることが推奨されているのだそう。ちなみに日本とは違って全裸で露天風呂に入ることはないそうです。

 西岡京治さん

 かれこれ20年以上もブータンに通っているという平山先生ですが、日本人は現地の人々からどのように思われているのかを尋ねてみると、

「ブータンの人は基本的に親日ですね」

 と嬉しいお言葉。というのも、日本のアニメやマンガも人気だけれど、何よりもブータンの農業改革に多大な貢献を果たした「西岡京治」さんという立派な方がいて、それまで厳しい自然環境もあってなかなか発展しなかったブータンの農産業に1964年から28年間にわたって日本からたくさんのノウハウを持ち込み、人々に教え続けた西岡さんの存在がなかったら、きっとこんなに親日にはなっていなかったのではないかと言います。西岡さんの活躍は国王も認めるところで、民間人に贈られる最高の爵位「ダショー」も授かり、「ダショー・ニシオカ」は今でもブータンの農業の父として慕われ続けているのだそうです。

 そんな西岡さんの偉業の副産物のひとつに、もしかしたらステテコの普及があったかもしれません。このようにして取材時間はあっという間に過ぎていき「ブータンと雨」についてお話を聞こうと伺った先で私たちを待っていたのは「雨に限らずブータンについてもっと知りたい」というさらなる「しあわせへの扉」でした。

 冒頭に置いた「ブータンのステテコ事情」についても、ぜひ追跡調査を行なっていければと思っております。

 それではみなさま、健やかに6月をお過ごしください。

 

【平山雄大 先生】

日本ブータン研究所 代表。2004年に初めて訪れたブータンに魅力を感じ、以来20年以上にわたってブータンの教育にまつわる研究を続け、現在はお茶の水女子大学グローバル協力センター講師も務めていらっしゃいます。

【日本ブータン研究所】

2013年の設立。ブータンに興味関心を持つ人たちをつなぐための勉強会や研究会といった活動を行っています。月に1、2回の頻度で開催している「ブータン勉強会」は現在オンラインで開催中。事前申し込みをすれば誰でも受講が可能ですよ。

ウェブサイトはこちら

先頭に戻る