ルッテン_荒岡敬さんに聞く、唯一無二のクリエイティブ・メガネ道(月刊ステテコ10月号)

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@Ryu Itadani
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今月の絵『視力検査表』 by Ryu Itadani

ルッテン_荒岡敬さんに聞く、唯一無二のクリエイティブ・メガネ道(月刊ステテコ10月号)

 10月になりました。秋はスポーツや味覚、芸術、読書などといったさまざまな風物詩が取り上げられますが、いずれにも深くその道を極めんとする求道者がいます。道はいつどのように現れ、人はなぜ道を極めようとするのか? そこで今回は東京・上野にあるメガネのセレクトショップ「ルッテン_*」を訪ね、オーナーの荒岡敬さんにお話を聞いてきました。

 *ルッテン_:東京・上野にある個性派メガネ店。表参道の名店「ブリンクベース」の元ディレクターでもある荒岡敬さんが店頭に立ち、日本国内を中心に20以上のメガネブランドを取り扱っています。もともとは昼と夜の2部制でしたが、現在、夜の部はお休み中。

ルッテン_店主の荒岡敬さん

——まず、荒岡さんのメガネ屋さんとしての背景を教えてください。

荒岡さん ウチは四国出身のお爺ちゃんの代からのメガネ屋なんですけど、そのお爺ちゃんが丁稚奉公(でっちぼうこう)みたいな感じで東京に来て、そのまま卸のメガネ屋を作ったのが始まりです。創業して85年ぐらいだから戦前の頃かな。福井県の鯖江とかで作られたメガネを仕入れて、それを東京とか地方に売りに行くことをやってたんですけど、実際に今この「ルッテン_」がある昭和通りを挟んだ向かい辺に、その頃のお爺ちゃんのお店がありました。

——上野が創業の地なんですね。

荒岡さん そうですね。僕がまだ幼い頃にお爺ちゃんが亡くなっちゃって親父があとを継いだんですけど、普通のサラリーマンの家庭じゃないから母も一緒に働いてたりしてて、家ではあまり構ってもらえなかったのでよくお店に行って遊んでましたね。

上野恩賜公園内の「めがね之碑」には創業者「荒岡秀吉」お爺さんの名も

——オシャレとしてメガネを意識し始めたのはいつ頃からなんですか。

荒岡さん 普通はだいたい中学生ぐらいから色気を出したくなると思うんですけど、僕は洋服好きの4つ上の兄貴がいて影響を受けちゃって。上野に住んでるとアメ横が近いので小学生ぐらいからよく買い物をしていました。アメカジっていうんですかね……。

——小学生の頃からアメ横で洋服を買ってたんですか?

荒岡さん リーバイスの501とか買ってました。小学校高学年ぐらいから。

——そういう子どもは周りにもいましたか?

荒岡さん いや、周りにはいないです全然。みんなそこまで詳しくないし。兄貴はもう雑誌を読んでたんですよね、メンズノンノとかメンズクラブとか。僕は読まないんだけど、兄貴に言われるがまま、例えば「フレンチ・ラコ(フランス製のラコステのポロシャツ)がかっこいいから買ってこい」とか。そういう感じなんですよ。フレッドペリーも着てましたね、当時は。

——お兄さんとアメ横が教科書だったんですね。

荒岡さん そうなんですよ。兄貴に教えてもらうものが全部アメ横に売ってる(笑)。そういう中で映画とかも中学生ぐらいからフランス映画のゴダールの『勝手にしやがれ』とかを観ていて。

——中学生でヌーヴェル・ヴァーグを観ていたんですか!?

荒岡さん 分からないながら観てたんですよ。「なんかオシャレっぽいから観よう」ぐらいの話なんですけど(笑)。

——荒岡少年オシャレ過ぎ(笑)。

荒岡さん で、その頃にたまたま『スタンド・バイ・ミー』がやってて映画館に観に行ったら、それまでメガネってただ視力が弱い人がかけるくらいにしか思ってなかったのが、コリー・フェルドマンっていう少年役の俳優が黒縁のメガネをかけてるのを観て「うわ!すげえかっこいいじゃん!」って。初めてメガネをスタイルとして見たのはそこからでした。

——登場する子どもたちがそれぞれスタイルを持ってましたよね。

荒岡さん それで黒縁のメガネをかけて、七三分けでソフトリーゼントみたいにグッてやって、そんな格好して中学校に行ったりとかしてたんです(笑)。さらにその数年後、自分にとってメガネがファッションになった極め付けが、大学生ぐらいのときに原宿のラフォーレにあった「CCカントリー」というメガネのセレクトショップとの出会いでした。そこではメガネのことを「アイウェア」って呼んでいたんです。「え!?アイウェアって何!?」みたいな衝撃で。

——自分のお店を始めたのはどんな経緯だったんですか?

荒岡さん 僕は大学を出て一旦、就職して北海道に居たんですど、この先どうしようかな……と漠然と考えていた頃に、ニューヨークでメガネの修行から帰国した兄貴と話をする機会があって「店作ろうか」みたいな感じになったんです。その当時の日本はデザイナーズブランドではなくてメガネブランドを中心に扱うお店がほとんどだったんですけど、兄貴が見てきたニューヨークではそうじゃなくて「かっこよきゃどっちがあってもいい」という考え方だったと聞いて、それなら、自分の理想にしているセレクトに近いので一緒にやりたいと言って。兄貴も1人では大変だから、じゃあ一緒にやろうよって2001年に青山にオープンさせたのが「ブリンク外苑前」だったんです。

——有名なお店ですよね。

荒岡さん でも大変でしたよ。認知されて売れるようになるまで7~8年ぐらいは掛かったと思います。ただやっぱり青山って当時はチャレンジする人を受け入れてくれる人たちがたくさんいて、いろんな人にお世話になったんですよね。「若いやつが頑張ってっから、拾わなきゃ」みたいなムードがあったんだと思います。

昭和通りに面したルッテン_。最寄りのJR御徒町駅からは徒歩7分ほど

——このルッテン_はどのようにして生まれたのですか?

荒岡さん その後、2008年に表参道に2店舗目の「ブリンクベース」を作りました。そっちではさらに自分の思いを強めて、ファッションとメガネをどう結びつけるのかをいろいろとやってたんです。セレクトショップでイベントをさせてもらったりとか、コレクションブランドのメガネを作ったりとか。自分にできることは全部やってやろうって頑張ってました。

——勢いを感じますね。

荒岡さん で、全力で何年もやっていくうちに、少しずつまた違った形で前向きなことを、飲食とか、人が集まれるような場所を作りたいなって思うようになって、そしたらある日、友人から「荒岡さんは地元の上野に戻って恩返しした方がいいんじゃないですか」って言われたんです。初めに聞いたときは「え?俺、上野に戻るの?」みたいな感じで全然ピンと来なかったんですけど、でも地元に貢献できるならそれもひとつ、人生としてありかもなって思ってルッテン_を作りました。

——オープンしたのはいつですか?

荒岡さん 2018年です。まずはメガネではなく、カフェをメインに始めたんですが、そしたらすぐコロナになってしまって(笑)。

——カフェメインだときついですよね……。

荒岡さん 「こんな人生ってあるんだな」って、本当に思いました。飲食が自分に合っていなかったのかもしれないんですが、いくら頑張っても「苦しいな……」しかなくて、これがいつまで続くんだろう……って考え込んじゃうことが多々あって。そしたらコロナの緊急事態宣言で何日も営業できない状況だったある日に突然、親父が店に来たんです。

——お父さんがお店にやってきた?

荒岡さん まぁ一応、今までの僕の働きっぷりとかをずっと見てるわけじゃないですか。僕、初めてあんなに親父に怒られたというか、「お前、こんなことやってる場合じゃねえだろ!」っていきなり。元々そんなこと言うような親父じゃないんですけど、そのとき初めて「お前だったらもっとメガネもいろいろできるだろう。こんなことやったらダメだ!」って。あんなに親父に言われたことは人生で初めてなんですよね。激ギレぐらいに言われてしまって。

——飲食に挑戦してコロナ禍で潰れそうになってる息子に「お前にはメガネがあるだろ!」って檄を入れに来たってことですよね。お父さん、最高に素敵です。

荒岡さん 本当にありがたいですよ。ただ、すぐにはもう一度メガネの仕事に……とは簡単には切り替えられなくて。カフェの営業を続けながら気持ちを確かめていく中でやっぱり「俺はメガネ好きだよな」って思うようになって、メガネやってるときはあんなに楽しかったんだから、だったらカフェもメガネも全部一緒にやってみるのもいいなと思ったんですよ。そこからは気持ちがすごい楽になったんですよね。もう1回スタートしてみようと。で、今に至るって感じですね。

——荒岡史、感動的すぎます。

荒岡さん 親父があんなに叱ってくれたことと、こっちで出会えた仲間たちの存在がすごくありがたいというか。特にクリエイティブに対してすごく影響を受けた東京藝大で助手をやってる友人がいるんですけど、彼が初めてお店に来てくれたとき、見た目は30歳ぐらいで髪を白髪に染めて全身ヨウジ・ヤマモトみたいな感じで、なんかすごい人が入って来ちゃったなと。で、恐る恐る声をかけたら「僕、建築家なんですけど」って言ってきて。この雰囲気で建築家なのか!と(笑)。でもよく見たら、確かに建築家が選びそうなメガネをかけてるなと思ったんですよ。

——建築家が選びそうなメガネ?

荒岡さん っていうのも、青山のブリンクって著名な建築家の事務所が近いから、結構みんな買いに来てくれてて、割と建築やっている人と喋るのに慣れてたんですよ。で、そこから彼と仲良くなって、彼のおかげで藝大の子たちが何人もお店に出入りしてくれるようになって。

——よかったじゃないですか!

荒岡さん そうなんですよ。絵画や彫刻を突き詰めようって、めちゃめちゃ頑張ってる子たちが遊びに来てくれるようになって。とにかくみんな本気なんです。どうやって作家として思想を立てていくかをすごい考えてて。もちろん、学生だっていうのもあると思うんですけど、こんなに無垢にクリエイティブに対して考えている子たちに出会って、俺ももっと頑張んなきゃなって思ったんです。

——学生たちからも励まされて……

荒岡さん そこからなんですよね。それまでもデザイナーの取材とかはちょこちょこやってたんですけど、自分がクリエイティブに対しての考え方とか、幅の広げ方とかリテラシーとか感覚をどんどん強めていくことで、インタビューの内容も絶対に変わるなって思うようになって。

——もともとデザイナーの取材はしていたんですね。

荒岡さん ウェブのnoteとかめちゃくちゃ書いてました。だから自分の感性を少しでも磨くことができれば、もっとメガネのおもしろさが理解できて、人にも伝えていけるんじゃないかと思って毎日生きてる感じですね。

——途中から、これはもはや「メガネ愛」だと思って聞いてます(笑)。

荒岡さん 愛かどうかわかんないんですけどね(笑)。でも本当にメガネのことしか考えてないです。美術館に行ったり、食事に行ったり、景色を見たり、音楽を聞いたり、何をしててもメガネに結びつけちゃう。自分の人間性とか、感性とか、考え方を磨くことで、それまでと違うものが見えるんじゃないかって。

——荒岡さんは生きるメガネですね。

荒岡さん 僕、メガネなんですかね(笑)。でも、もしかしたら「メガネ道」みたいなものかもしれないです。自分が思うメガネの道、メガネってこうあったら美しいなとか、そういうものをずっと考えてる。

——なるほど。これだけ濃密なメガネ道を歩んでこられて、どんなメガネを「いいメガネ」だと思うんですか?

荒岡さん そうですね……自分がいいな、欲しいなって思うものは、例えばトレンドとか、今これがかっこいいとか、こういうデザインってオシャレなブランドが使ってるよねみたいなのがあると思うんですけど、僕はそういうものは、一個人としては興味がないですね。

——トレンドには興味がない?

荒岡さん 一言で言えば商業的ってことですよね。商業的なデザインを自分はいいと思えなくて。それよりも本当にいいなと思うのって、やっぱり自分の経験でしかないんですよね。例えば、今かけてるメガネはフレームが大きいんですけど、僕は池波正太郎が好きで、あのスタイルがめっちゃかっこいいなって思うんですよ。

——確かにそうお聞きすると、池波正太郎に見えます。

荒岡さん いわゆるファッション系の人でそんなこと言う人はあまりいないと思うんですけど、でも自分は池波正太郎ってすごいインテリだし、粋だし、美食家だし、スタイルのかっこいいメガネをかけてると思って、それが理想だと思ってこのメガネを製作しました。だから結局、自分の今までに通ってきたところとか、好きになってしまったという心の内にあるものでしかないと思うんですよ。そことメガネがリンクしたときに、自分にしか湧き起こらない感情になって高ぶるみたいなところがあって。

荒岡さん愛用のメガネたちと、それを拭く美しい所作

——それを荒岡さんは「ワクワク」っていうんですね。

荒岡さん そうですね。自分にとってはそれがあるものがいいメガネかなと思います。でも結局みんな情報で買っちゃうじゃないですか。これが流行ってますとか、こういうデザインの服を着てる人がかっこいいとか。それよりも自分が何がエレガントだって感じる心を手に入れる方がめっちゃ大事だと思ってて。

——なにがエレガントかを感じる心……

荒岡さん なんかそういうのを手に入れる、育むみたいなところをやった方がいいのになって。だから流行もお客さんにとってはもちろん大事なことだと思うんですけど、自分個人にとっては全然重要なことではないなって思いますね。

——そういうお話はお客さんともしますか?

荒岡さん 仲が良い方とはよくしますよ。あと、僕は『24M』っていうメディアをやっていて、みなさんに寄稿してもらってるんですけど、流行ってるとか流行ってないとか、情報がどうだとかいらないって言ってるんです。情報なんてもうありふれているから、自分がこれがいい、萌える、誰もいいと思わないけど自分はいいんですっていうものを取り上げてくださいって。

——じゃあルッテン_のメガネもそういう視点で選んでるんですか?

荒岡さん 自分とバイヤー視点と両方、バランスですね。僕、自分のセレクトって全員に刺さるとはまったく思ってなくて。だから一応、バイヤー視点のメガネはいろいろ考えて選んでいて、例えばすごいオシャレが好きな人とか、オシャレにあまり興味がない人とか、プロダクトデザインが好きな人とか、バイクが好きな人とか、みんなやっぱり見方が違うので、その人が来たときに話を聞いてどんな感受性なのかを考えて「じゃあこの辺どうですか?」って、そういうセレクトのラインナップを作ってる感じですかね。

——荒岡さんはお客さんと独特な関係性がありますよね。

荒岡さん さっきお話した「全員に刺さると思ってない」っていうのが重要で、結局は信頼なんですよ。荒岡だったらここまで考えてくれるかもしれないとか、そういうお客さんとの間柄なんですけど、やっぱり僕もずっとメガネを見続けてるから、お客さんよりも気づくことが全然多いわけじゃないですか。それをできるだけ嫌味なく伝えられるようにと思ってやっています。

——でもそれってすごく手間暇がかかるやり方じゃないですか?

荒岡さん 全然、合理的じゃないですね(笑)。

——というか、荒岡さんじゃないとできない(笑)。

荒岡さん 確かに再現性はないかもしれない。でも僕はやっぱり作家性みたいなところにすごい惹かれちゃって。ある意味ではそういうお店を作ろうとしてるというか。自分にしか作れないお店って言うんですかね。作品とまでは言わないですけど、そういうオリジナルなものを作らないと意味がないと思ってる。

——荒岡さんのメガネ道を体現するルッテン_。すごくおもしろいです。

荒岡さん ありがとうございます。でも結局、僕はそういう道が楽しいんです(笑)。

 

眼鏡とクラフト at RUTTEN

12:00 - 19:30

東京都台東区上野5-5-10-1F

定休日:月曜、第3水曜

オフィシャルサイト:https://www.rutten-eyewear.com/

インスタグラム:@rutten_ueno5

<インフォメーション>

MEGANE AND ME  POPUP EVENT

10/3(土) - 10/18(日)

ファッションの感性とアイウェアのモノづくりを融合した「MEGANE AND ME」のポップアップイベントが開催されます。福井県鯖江市で作られるポストモダン的なデザイン、ディテールにこだわった高品質でハイテクニックなプロダクトが特徴とのこと。さらに構想約1年半をかけたルッテン_別注の限定カラーモデルも登場予定です。ぜひ遊びに行ってみてください。

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